2011年11月16日水曜日

通訳の経験

私は4〜5年前までよく企業で通訳の仕事をしていました。この時の経験を書いてみたいと思います。

通訳者でも英語講師でも、英語を使うことは同じですが、大きな違いが2つあると思います。まず1番目はその場を仕切ることができるかどうかです。英語講師の場合、時間がくれば、「今日はこのへんで終わりにしましょう。お疲れさまでした」と言うことができますが、通訳者の場合はこうは言えません。会議が長引けば、最後までお付き合いしなければなりませんし、宴会にもお付き合いしなければならないこともありました。2番目に内容を理解しているかどうかです。英語講師の場合、内容は自分で決めることができ、予習もできます。もちろん自分が何を話しているのかもよく分かります。しかし通訳の場合、企業で話す内容は専門的なので、自分がよく理解しているとは限りません。極秘の資料は社外持ち出し禁止なので、専門的な内容であっても、事前にもらうことはできません。事前に通訳の内容の説明を聞きに行った時に、自分でメモをして予習することしかできません。

私は1998年に都内にある通訳者養成学校に通い始めました。この学校では通訳入門クラスから入り、その後会議・放送通訳というクラスに上がりました。このレベルのクラスになると、受講者でも英検の1級を持ち、実際に通訳として働いている人もいました。この学校では通訳の技能というより、英語の勉強の仕方を教えてもらい刺激になりました。

実際に企業で通訳をするようになって、どんなにレベルの高いクラスであっても、受講者の方が気が楽だということが分かりました。授業中に流されたものを聞き取れなければ、「分かりません」と言えばすみますが、実際の通訳の場面で、確かに分からないこともありますが、「分かりません」とは言わないようにしました。分からなければ聞き返すなり、担当者に説明を求めました。通訳という立場で企業に行って、「分かりません」を連発すると、通訳の依頼は来なくなるかもしれません。

学校で通訳の訓練を受ける場合と企業で通訳する場合の大きな違いは、緊張感だと思います。「自分の訳を待っている人がいて、早くしかも正しく伝えなくてはならない」というのがプレッシャーでした。特に金額の話が出てきた時は、「桁を間違えたら大変なことになる」と思いました。実際に自分が通訳をやっていたころ、「これだけの緊張感の中で英語を聞いたら、リスニング力がつくことは間違いない」と思いました。

私は授業で雑音が入っている教材も使います。工場だとうるさい機械が動いていても通訳しなければならないことがあります。「通訳しますから、機械のスイッチを切ってください」などど言えるはずがありません。日本語で話をしていて聞き取れないくらい音がうるさいのならしょうがありませんが、日本語が聞き取れるくらいなら、英語も聞き取れるはずです。教材に多少雑音が入っていたとしても、集中して聞けば聞き取れるレベルのものを、私は授業で使っています。

雑音がなくきれいな状態で録音されたものを教材として使っても、あまりリスニング力はつかないと思います。なぜインフルエンザの予防接種を受けるのか。ある程度ばい菌が入った教材を使った方が、リスニング力はつくのです。

通訳という立場で企業に行くと、機密情報も知ることになります。ある自動車会社で通訳をした時は、未発表の車を見ました。自動車に興味のある人が、自動車会社で通訳をやったら楽しいと思います。通訳をすると、一般の人は絶対に立ち入りできない場所にも入ります。最新の情報を耳にすることもあります。こう考えると、通訳の仕事は楽しいとも言えます。

通訳者を目指している方には申し訳ありませんが、通訳というのは格好いい仕事ではなく、地味な仕事です。通訳者が目立ってはいけないのです。1日8時間通訳をしたら、どれだけ疲れるか、やってみてください。でも日本にいながらにして、本当に英語力をつけたいのであれば、通訳者になって勉強を続けることが一番です。





1 件のコメント:

  1. 本日もたくさんの情報をありがとうございました!!夢が膨らみました。

    栗原さん学校にも通われていたんですね!!栗原さんの通訳なさっている姿が目に浮かびます!

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